(2)実例でみていこう

　ツイッターなどのSNSに書き込まれる文章解読にもAIは最適です。先日、「次に乗りたい車」というテーマで約2万人が書き込んだネット情報を見つけました。トヨタやホンダ、日産、それから外国車など20車種の名前があげられ、それぞれ理由が書き込まれていました。いちばん多かった「次に乗りたい車」はトヨタで、書き込んだ人全体の４分の１の人数が該当しました。AIを使って６千人のあげた理由を解読すると43個の成分が抽出されました。ここでは主成分の大きさ順に、上位30位までを掲示します。人数順ではありません。

人数 次に乗りたい車はトヨタにした理由 軸太さ
77 アフター,サービス,しっかり,がいい 1.78
104 故障,少ない,ないので,今まで,聞いて 1.70
413 今まで,ずっと,乗って,トヨタ 1.59
89 トップ,ブランド,メーカ,国産,世界的,イメージ1.46
282 信頼,できる,メーカ,一番 1.41
19 車体,比べて,日産,高級感 1.40
46 運転,乗りやすい,乗心地,一番 1.40
25 知り合いが,勤めて,ディーラー,家族 1.37
114 乗心地,がいい,対応,品質 1.36
39 装備,充実,車種,バランス,耐久性 1.35
9 環境,やさしい,ディーラー 1.31
14 乗心地,トータル,バランス,高級感 1.31
27 作りが,しっかり,聞いて,車体 1.30
22 内装,豪華,感じる,比べて 1.28
43 種類,多い,車種,ランドクルーザ 1.28
210 デザイン,性能,がいい,好き 1.26
19 ハイブリッド,燃費,環境,エスティマ 1.25
13 一番,売れて,下取り 1.24
69 家族,会社,勤めて,欲しい,トヨタ 1.23
47 欲しい,決まって,車種,次に 1.22
5 整備,エンジン,聞いて,対応 1.22
164 安心,乗れる,イメージ,できる 1.22
15 近くに,営業,対応,ディーラー 1.21
11 世界的,機能,高級感,感じる,理由 1.21
35 同じ,下取り,メーカ,会社 1.20
46 不満,ないので,対応,乗って 1.20
10 感じる,イメージ,使用,なんとなく,豪華 1.19
30 価格,安い,高い,種類,品質,最初 1.19
5 世界的,一度,購入 1.18
87 自分,スタイル,好き,メーカ,対応 1.18

　軸の太さとは、主成分を構成する3〜６個の単語の集まり方（回答者と単語群との相関行列）の凝集力をいい、単語が共に使われる意味の「共起」の分散を表しています。「軸の太さ」と言い換えました。第一軸は、「アフターサービスがいい、しっかりしている」という発言にまとまり、77人が書いたといえます。第二軸は「今まで故障が少ないと聞いている」で104人、第三軸は「今までずっとトヨタに乗っていたから」という理由を挙げた人が413人でした。

　では、第一軸の主成分を構成した人々は、いったいどんな価値観や意識の持ち主なのでしょうか。購買の動機がわかることは商品を提供する側にとって大変重要な情報ですが、その購入動機をもつ人々の考え方はどんなものなのかを知ると、さらにアピールや説明の仕方に工夫が凝らせます。どこをどう強調すればいいのか。

　重回帰分析にかけた結果、この第一軸に反応した人々は「周囲には丁寧に優しく語りかけ情緒的に対応する人」となりました。自動車を買う理由にアフターサービスのよさ、販売店との人間関係の円滑さをあげる集団です。

　次に第二軸を構成した意識集団はどんな価値観や生活態度を持っているのでしょうか。故障が少ないと聞いているからを理由とした人々です。これも重回帰分析にかけて、どんな価値観や態度を形成しているか調べてみました。すると、彼らは心配事がおおく悲観的にみる傾向があり気弱で不安な人」となりました。だから気にした購入理由が故障の少なさなのでした。

　第三軸は413人ともっとも構成人数が大きい軸です。今までずっとトヨタに乗ってきたからという経歴を購買理由にした人々は、同じ分析にかけると「従来の生活スタイルを変えず頑なに安定を大事にする保守派」となりました。乗りなれた車や会社のものが信頼できてイチバンという保守派でした。

　第四軸の成分は、トップブランドのメーカーで国産、世界的なイメージというもので、これには89人が該当していました。この人たちは次の成分の282人と同じ価値観と態度でした。第五軸は信頼できるメーカーで一番よいという成分です。これに対してもっとも反応した人々は「みずから社会的成功を望み周囲からも尊敬されている人」となりました。地域の名士やお金持ちなのでしょうか。

　つまりトヨタファンとは、まずアフターサービスを気にする人間関係派(第一)と、故障がなくて安心という心配性の人(第二)で集団ができていました。ついで昔から我が家はトヨタという保守派(第三)と、地域の名士やお金持ち(第四・五)の支持によって主に購入されていたようです。デザインや内装など美的関心からの表現は14番目以下の成分と地位が下がり、個性を強調するイメージでないことが分かります。

　購買理由にはいろいろありますが、それを書いた集団は購買動機と価値観や生活態度（意識・行動）に見事なまでにリンクしていました。AIによって多数の文章が解読されていける時代になったのです。単語を3〜6語を並べることで、コンピュータが人間の自然語で表現してくれます。さらに、その記述内容の集団はどんな価値観や態度を持っているのかがきちんと描かれます。

　これまでのテキストマイニングでは、どんな言葉がもっとも多く使われたかとか、何と何が同時に使われたかとかの共起だけに関心がありました。それだと雲を掴むような低レベルでしかないものでしたが、これでやっとマーケティングでの有用なツールが完成したといえます。

　このロボットが人との双方向の会話ができるまでには、まだしばらくかかります。今は人が与えてくれた文章を解読し、音声やテキスト、解決図で返してくれる段階です。名前はシンシパルといいますが、彼がみずからの意思を人へ伝えられるようになったとき、やっとAIの会話ロボットとして完成します。